馬車道駅の「ゼロエネルギーステーション」がすごい!再生可能エネルギー×デジタルテクノロジー
COP26が閉幕し、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるための削減強化を各国に求める「グラスゴー気候合意」が採択され、パリ協定のルールブックも完成しました。
COP26で、2度未満から1.5度を目標にするというさらに厳しい目標が決まりました!
【ジャーナリスト仲間がCOP26に参加】
さて、こちらのコラムでは、2050年カーボンニュートラルに向けて社会が動く中、地域の「脱炭素化」の取り組みを追いかけています!
今回の現場は「みなとみらい線 馬車道駅」。
馬車道駅は、横浜都心臨海部再開発の中心みなとみらい地区と、赤レンガ倉庫や県庁舎を中心に歴史的建造物が多く残る関内地区の間に位置しており、「過去と未来の対比と融合」をテーマにデザインされた、ドーム型の天井とレンガづくりの壁が印象的な駅です。
地下駅は、夏は涼しく冬は暖かい…なんとなくそんな印象がありますが、実は、車両からの冷房排熱や外気の流入などで、夏は駅構内の温度が上がってしまうため、冷房消費エネルギーが意外と大きいのです!
「冷房消費エネルギーをゼロにできないか!?」
現在、横浜高速鉄道では、この温熱環境の改善を目指す取り組みとして、再生可能エネルギーとデジタルテクノロジーを掛け合わせた地下駅の新たな冷房システムの開発に挑戦しています。
ちなみにこの事業は、環境省のCO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業のひとつとして認められていて、ヨコハマSDGsデザインセンターとの連携の上で進められています。今後この事業を脱炭素社会の実現へ向けたSDGsに資する連携取り組みとして、ヨコハマSDGsデザインセンターにおけるパイロット事業に位置付ける予定です。
【ゼロエネルギーステーションのシステム構成】
「再エネ」については、駅構内に発生する「地下水」と「列車風」に着目。
1.地中熱利用システム
地下水を貯める地下水槽水を介して回収した地中熱を利用して外気を冷却します。具体的にはホーム用空調機の一部に熱交換機と冷水コイルを増設して、空調機への導入外気より低い温度である地下水槽水を通して冷却された空気を送風しています。
→A1-2,A1-3
2.列車風利用システム
水の気化熱で冷気をつくり、その冷気をトンネル内の列車風により駅ホームに拡散します。ホームの冷房負荷は、従前の空間全体からお客様へのスポット空間にすることで、最小化が図られています。
→A1-1
「デジタルテクノロジー」については、全体のシステムを統合する「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」を搭載。
3.最適制御システム
AIにより人密度分布と温熱環境を予測し、自動制御により適時適所の冷房運転を実施しています。
→A3
さらに将来的には、
列車がブレーキをかけた時に生じる回生電力(車両の減速時に電動機を利用し、運動エネルギーを電力エネルギーに変換することによって生み出される電気。)を冷凍機やポンプ、ファンなどへの利用検討を予定しており、ゼロエネルギーの実現を目指しています。
馬車道駅ホームには、A1-1「クールゲート」と呼ばれる冷房設備が3台設置されています。
実際にどれくらいの風が吹いているのかというと…
お分かりいただけるでしょうか?紙を当てると優しい風が!
爽やかな涼しい風が通行人を心地よい気分に…
ちなみに、取材に伺った時は9月で、外気温が28度に対し、冷房設備からの冷風は23度でした。
従来のように、乗客の往来数に関わらず駅構内を満遍なく大量のエネルギーを消費して冷やすのではなく、クールゲートにより冷却された空気を「局所的に」送風することで、わずかな水で冷房することができるのです。場所・風量・時間などをAIで制御し、打ち水効果を利用して空気を冷却し「局所的に」通行客付近の空間に供給することで、わずかな水でしかもピンポイントで冷やすことができるのです。
そして、地中熱利用システムについて、ホームを降りて線路へ…
暑い夏に外気を取り入れる際に、外気よりも低い温度となる地下水槽水を通過させることで、熱い外気を冷やします。取り入れた外気が冷えていれば、駅構内の空気を冷やすのに必要なエネルギーは少なくて済みますね!
一方で、冬の場合は、寒い外気から熱を回収し、地下水槽と周辺の地中などを冷やすことで、夏に利用する地中熱を最大化します。
どういうことかというと、
冬本番に入るこの時期11月に、寒い外気を取り入れて地下水槽水を冷却し始めます。そして12月から2月くらいまで、さらに寒い外気の熱で地下水槽の水温を保ち、周辺地中などを冷却、春になる3月から夏本番に入るまでの6月ごろまで冷却した地中の温度を維持します。
で、7月から9月ごろまで冷却のために放熱する。という仕組みです。
2021年度の実証実験では、冷房消費エネルギーが約60%の削減が達成できたとのこと。これは年間でCO2を約200トン削減との試算となり、日本人一人当たりの年間CO2排出量は約2.3トン (注1)なので、約100人分削減できたことになります。
新型コロナによる人流制限で鉄道各社の経営が厳しい中、環境対策と経営の両立化によるグリーンリカバリーが求められます。
横浜高速鉄道によると、「今後も継続していくためにどうするか仕組みを作らないといけない」と指摘しています。
新たなイノベーションが生まれれば、電力・冷水使用量やCO2排出量が削減でき、「ゼロエネルギーステーション」の実現も夢ではないかもしれません。
横浜高速鉄道によると、今後の新たな冷房システムの導入は、実証結果の費用対効果検証を経て、みなとみらい線各駅への普及展開を検討することとしています。
ぜひ、馬車道駅をご利用される際は、新たな冷房システムをチェックしてみてください!
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(注1)全国地球温暖化防止活動 推進センター より